企業価値を最大化するためのCRE戦略(企業不動産戦略)

遊休資産について減損会計や
IFRSの会計基準から考える

2015.8.26

遊休資産とは、「事業の用に供するために取得したものの、何らかの理由によって使用や稼働を休止させている資産」と定義されており、います。そのうち稼働していない不動産(土地や建物など)は「遊休不動産」、使われなくなった動産(工作機械やパソコンなど)は「遊休動産」と称されています。

CRE(企業不動産)に影響する「減損会計」「IFRS(国際財務報告基準)」といった会計基準に注目しながら、遊休資産について詳しく解説していきたいと思います。

もくじ

遊休資産について減損会計や
IFRSの会計基準から考える

[1]遊休資産について

(1)概要

遊休資産とは稼働休止資産とも呼ばれ、事業使用の目的で取得したにも関わらず、なんらかの理由で使用や稼働を停止している資産のことをいいます。土地や建物の施設のほか、工場内の機械などもこれに含みます。

これら資産を漫然と所有し続けると、事業所税など様々な保有コストが嵩みます。事業に使用できるものの稼働は休止されている「遊休固定資産(休止固定資産)」や、完成状態にありながらも実際に稼働されたことのない「未稼働資産」なども償却資産として課税対象になるのです(償却資産税)。そのため遊休状態であっても、将来を含め、事業の中で再利用・再稼働される見込みが完全になくならないかぎりは、固定資産税の申告対象となります。

[参考:固定資産の減価償却について]

法定耐用年数を経過した古い固定資産も、償却資産申告対象になります。償却期間の終わった(償却停止)資産や、帳簿上は備忘価額(1円)となった資産でも、事業の用に供している資産であれば、申告する必要が生じてくるのです。

さらに、税制改正により平成20年4月1日以降はリース取引も売買取引として扱われるようになり、以前であれば「リース料(賃貸料)」として経費計上されていたものが「リース資産」(資産購入)として減価償却の対象になっている点も要注意です。

(2)税務上と会計上の取り扱いの違い

税務上、事業目的で使用されていない固定資産に関して、減価償却費の計上は認められていません。ただし、活用を止める判断を行った遊休固定資産であっても、必要なメンテナンスを施すことですぐにでも稼働できる状態にあれば減価償却の対象とされています。

一方(他方)、会計上では遊休状態にあっても、保有し続けるだけで経年劣化・自然減耗といった減価は発生していると見なされ、減価償却が行われることになります。

減価償却を詳しく知りたい方はこちら
固定資産の減価償却を3段階で理解しよう

出典:法人税申告書の記載の手引(別表16「減価償却資産の償却額の計算に関する明細書」)

[2]減損会計とは?

減損会計とは、所有する土地や工場・倉庫などの価値(時価評価)が、帳簿価格の価値(簿価評価)を大きく下回ったときに、将来的に生じる損失を前倒してバランスシート(貸借対照表)などの財務諸表に反映させる会計処理のことを言います。

従来、統一的な会社法典が存在しなかった日本ですが、2005年6月に「会社法」が国会で成立し、翌2006年5月に施行されました。こういった流れの中で会計基準等の見直しも行われ、「固定資産の減損に係る会計基準」の導入を経て、2006年3月期より全ての上場企業に減損会計が強制適用されました。

よって、遊休資産においても購入や建設といった投資コストの回収が見込めなくなった段階で、その含み損を明確にした上、減損処理を行う必要があります。対象は不動産だけでなく、工場などで使っていた機械なども含まれます。時価会計に似ていますが、時価会計がすべての資産を対象としているのに対して、減損会計基準では固定資産の中で「減損の兆候」があるものが対象となります。

また、連結財務諸表を作成している会社については、自社の固定資産だけでなく、子会社を含めた連結グループ全体の固定資産が減損会計の対象となります。

ちなみに税法上、「減損」という概念はありませんが、「有姿除却」という制度への適用条件を満たせば、物理的な除却を行わなくても除却損を計上できます。

参考:国税庁HP/第1款 除却損失等の損金算入(取り壊した建物等の帳簿価額の損金算入)

[3]減損処理の意義・影響

遊休資産における減損処理は健全な企業活動の流れに沿ったものであり、資産あるいは資産グループが有する正確な経済的価値を可視化するものです。減損会計を行った際には、その資産や金額だけでなく、減損損失へ至った経緯やグルーピング方法、回収可能価額の算出方法まで記述することになり、一連の減損処理には企業の財務諸表の透明性を高める効果・メリットがある、というわけです。

ただ、損失が明示化されるものである以上、企業価値の低下による社会的信用や株価への悪影響・デメリットも考えられます。遊休資産について、それを売却するか、減損処理をするか、あるいは活用するかを戦略的に定めていくことが大切です。

これからのCRE戦略は、遊休資産の有効活用が、大きなテーマとなってきます。減損会計を意識して資産を見直していくことで、企業が保有している資産がどのように活用され、どのような収益をあげているのかが整理され、そのことが資本効率の向上にもつながっていくことでしょう。

[4]IFRSの導入と企業経営への影響

グローバル化が進む今日、国際的な会計基準のコンバージェンス(収斂)=会計基準の共通化が求められています。

海外の投資家にとっては、日本独自の会計基準(JGAAP)で作られた資産・損益情報を国際的な基準で比較・評価し直すことはとても不便なことでした。そのことが日本市場の魅力低下に繋がるのではないか、と危機感を持った金融庁は日本の会計基準をIFRS(国際財務報告基準)に近づける方針を打ち出しました。

IFRSとは、IASB(国際会計基準審議会)によって設定される会計基準です。2005年よりEU域内で上場企業の財務諸表作成基準として適用が義務づけられたことをきっかけに発展途上国も含めて世界的に導入され始め、現在では100を超える国や地域に普及しています。

このIFRSが2005年にヨーロッパの証券市場で適用される以前はUSGAAP(米国会計基準)が最先端の会計理論・実務とされていましたが、今では日本の会計基準もIFRSとのコンバージェンスを進めています。

現在、IFRS適用に際して日本企業は様々な検討事項に直面しています。例として、業務プロセスやシステムの変更、経営管理などが挙げられます。また、同様の事象でも考え方に差異のあるケースがあります。その中で、遊休資産の会計処理に関する日本基準とIFRSの減損会計の違いについて少しご紹介します。

①減損の兆候の判定日本基準では、「(減損の兆候を認めうる)市場価格の著しい下落」とは、少なくとも50%程度の下落としていますが、IFRSではそのような数値は示されていません。IFRSでは、「株式市場価値が純資産帳簿価額を下回る」ことが、減損の兆候であるとしています。

②減損損失の測定割引前将来キャッシュフローが帳簿価額を下回る固定資産のみを減損損失の測定対象としている日本基準にたいして、IFRSではそのような限定はありません。

IFRSの方が日本基準よりも減損損失が認識されやすい傾向にあることがわかります。遊休資産を持て余したまま、売却や有効活用などのCRE戦略の具体的方針がない企業には、このIFRS導入が経営的にマイナスをもたらす可能性も否定できません。

[5]CRE戦略における新しい潮流

IFRS導入の流れもあり、減損兆候の評価や判定、証券化された不動産への投資効率の改善など、会計に関する面でも新たなCRE戦略の策定が必要不可欠になってきています。企業経営において重要度を増すCRE戦略ですが、その取り組みの筆頭に挙げられているのが遊休資産の活用です。

近年、有利子負債の全体的な減少と企業の内部留保の増加傾向によって企業の財務体力が回復し始め、遊休資産といった企業保有不動産についても売却するだけではなく、有効活用していこうという流れが生まれたのです。

出典:「一般財団法人日本不動産研究所」(アンケート調査)

CRE戦略のソリューションとして、市街地ではオフィスビル・店舗の運営会社へ賃貸、郊外では商業施設・医療モール・物流施設などへの転用、あるいは、査定・買取サービスと、遊休資産についての様々なビジネスモデルが続々と創出されています。このような遊休資産の効果的な活用事例が増えてきています。

厚生労働省は、「遊休資産売却に関する省内プロジェクトチーム」を設置し、処理実績を開示するなど、遊休資産の売却を積極的に進めています。一方で医療法人が保有する遊休資産については「原則、売却」の姿勢をとりつつも、将来的に使用の再開が見込まれるのならば(あるいは売却が困難であるのならば)、賃貸等不動産での活用も認める考えを示しています。

出典:2015年5月21日付けでの厚労省医政局長の通達・医療法人の資産に関する「運営管理に関する指導要綱(改正)」

CRE(企業不動産)の活用には、立地環境や収益性、周辺ニーズ、将来性、イニシャルコスト、税金など、いろいろな観点から検討していく必要があります。長期的な経営戦略の視点に立ったCRE戦略を策定するために、実際の活用事例などを幅広く情報収集していくことが大切です。

遊休不動産の活用例を知りたい方はこちら
遊休不動産や遊休地活用はCRE戦略の重要な課題

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いろいろな「資産」

そもそも資産とはなんでしょう。
資産とは「会計学用語であり、財務会計および簿記における勘定科目の区分の一つ」とされています。

出典:Wikipedia「資産」

会計における資産とは、企業が持っているお金(現金、預金など)や備品、土地、建物、設備など、価値を有するあらゆるものを含みます。形のない特許や商標といった知的財産なども資産に分類されます。

[会計(貸借対照表)上での資産の3分類]

会計における資産とは大きく以下の3つに分けることができます。

流動資産
流れ動く資産(増減の変動が大きい資産)のこと。通常、1年以内に現金化・費用化できるものを指します。流動資産には、現金、預金、有価証券、受取手形、棚卸資産、売掛金などがあります。
固定資産
流動資産の対義語。1年以上経ってもすぐには現金化できない資産のこと。言い換えれば、販売目的ではなく、継続的に使用していくことを目的に保有されている財産のこと。固定資産には、土地・建物・機械などの「有形固定資産」や、ソフトウェア・営業権・特許権・商標権・意匠権・実用新案権・電話加入権などの「無形固定資産」があります。
繰延資産
本来は費用に分類されるべきものですが、複数年に及ぶ継続的な効果が認められることから、一時的に資産として認定され、貸借対照表(B/S)上においても資産の部に記載されるものです。創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費などがあります。

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減損会計処理の手順

減損会計は以下のような流れで行っていきます。

(1)固定資産のグルーピング

減損損失の認識・測定を行う対象としての資産グループを決定します。資産グループとは、ある独立したキャッシュフロー(現金の流れ)を生み出す最小単位のことです。

(2)減損の兆候の把握

減損の兆候とは、ある資産または資産グループに減損が発生している可能性を示唆する事象・きざしのことを指します。「減損の兆候あり」と判定されるには、その資産グループ全体のキャッシュフローが継続してマイナスになっている(あるいはその見込みがある)、などの要件があります。

(3)減損損失の認識(減損判定)

その資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識することになります。

(4)減損損失の測定

減損損失が認識された資産または資産グループは、その帳簿価額を回収可能価額まで減額します。

(5)会計処理・表示(財務諸表への注記)

財務諸表に減損損失を認識した資産、減損損失に至った経緯、減損損失の金額、減損を認識した資産グルーピングの方法、回収可能価額の算出方法を記述していきます。

遊休資産の場合は、将来にわたって事業活動での使用や活用の計画がないケースで市場価値が50%程度下がってしまっているならば減損として計上することになります。一方、減損の兆候が認められなかったケースや、帳簿価額を大きく下回るような減損損失が認められなかったケースについては、減損処理が不要と判断されます。

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簿記の基本となる概念・勘定科目

勘定科目とは、財務諸表(貸借対照表・損益計算書・利益処分計算書・附属明細表など)や複式簿記の仕訳などに用いられる「表示金額の名目(カテゴリ化された取引名)」を意味します。そして、その性質によって5つの種類に大別されます。

[貸借対照表に関連する勘定科目]

(1)資産

流動資産、固定資産、繰延資産

(2)負債

流動負債、固定負債

(3)資本(純資産)

資本金、資本準備金、利益準備金、利益剰余金など

[損益計算書※に関連する勘定科目]

(4)費用

営業費用(減価償却費、修繕費・機械装置等の移設費用、給料賃金、広告宣伝費など)、営業外費用(支払利息、有価証券売却損、有価証券評価損など)、特別損失(固定資産売却損、固定資産評価損など)

(5)収益

営業収益(売上)、営業外収益(受取利益、受取配当金、為替差益、雑収入など)、特別利益(固定資産売却益)

※公益目的事業を営む公益法人にとって、重要なのは「利益」ではなく「公益」なので、公益法人会計基準においては、「損益計算書」の代わりに、財産の増減を一覧するための「正味財産増減計算書」を作成します。

このページで登場する「CRE」用語

遊休地
遊休状態にある土地であり、ビルや住宅、農地、駐車場といったいかなる用途でも使用されていない状態の土地を指す。遊休資産のうち、定着物がほとんどない土地だけのものなどがこれに該当する。
遊休土地
国土利用計画法に基づいて土地を取得した後、2年以上利用されていない一定以上の面積の土地のうち、都道府県知事が利用促進の必要性を特に認めたもの。遊休土地の通知を受けた際、ある定められた期間内にその土地の適切な利用あるいは処分についての計画を届け出なければならない。
遊休財産
具体的な使用法や活用法が決まっていない内部留保状態の財産のこと。公益財団法人や公益社団法人では、この遊休財産額が1年間の公益目的事業の費用を超えてはならないことになっている。
償却資産
事業の用に供することが可能な資産のうち、土地や家屋以外の資産のこと。法人税法と所得税法において減価償却額または減価償却費が損金または必要経費として算入されるものを指す。具体的には構築物(看板、煙突、舗装した駐車場など)、機械・器具(印刷機械、ブルドーザーなどの建設機械など)、航空機・船舶(クルーザー、ボート、ヘリコプター、漁船など)、車両・運搬具(フォ-クリフト等の大型特殊自動車、トロッコなど)、工具・備品(パソコン、検査工具、デスク、冷蔵庫、ガス器具など)などがある。
回収可能価額
企業がある資産を活用することで将来的に回収できると見込まれる期待額。処分時点における見積残存価額も含む。正味売却価額(時価から処分費用見積額を控除して算出される額)と使用価値(特定のユーザ―が特定の方法で活用した際に現れてくる、特定の資産が持つ価値)のどちらか高い方の金額により算定される。
定期借地権
当初に定められた契約期間内で借地関係が終了し、その後の契約更新は認められない借地権のこと。新借地借家法によって規定されている。旧借地法による過度な借地人への保護を改めるかたちで誕生した。

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